MAKE CLOTHING, LIKE JAZZ. vol.03

MAKE CLOTHING, LIKE JAZZ. vol.03

3シーズン目のクリエイションから紐解く、
渋川進が描く理想のブランド像。

真面目なのか不真面目なのか、さっぱりそのテンションがわからない渋川進。彼がディレクターを務める〈セパバス(SEPARATE BATH & TOILET)〉も、今季で3シーズン目を迎えました。デビューシーズンの“白”、2シーズン目の“黒”に続いて、今回は“水色”ということで、渋川さんの頭の中にはどんな絵が描かれているのでしょうか? ブランドの本社内にある重厚な会議室にて、彼のインタビューを敢行しました。

 Photo:Motoyuki Daifu
Interview & Text:Yuichiro Tsuji

Profile
渋川 進 / SEPARATE BATH & TOILET Creative Director
年齢不詳、プロフィール非公開。
好きな食べ物:パン
好きな動物:カピパラ
口癖:「それいいじゃん!」 

 

 

サメは5メートルくらいが理想です。

 

ー渋川さん、今回もよろしくお願いします。 

渋川:どうも渋川です。よろしく。

 

ーもうそろそろ3月になるのにこんな話題もなんですが、渋川さんは年末年始にどんなことをして過ごしていたんですか?

渋川:年末は普通に家で過ごしてましたよ。紅白を見て、ゆく年くる年を見て、寝ました。そして起きたら初詣に行くようにしてますね。

 

ー初夢は見ましたか?

渋川:見ましたね、エロいやつ。何を見ると縁起がいいんでしたっけ?

 

ー「一富士二鷹三茄子」ですね。

渋川:そう、それそれ。うちの奥さんが見たって言ってました。


ー奥さんいるんですか?

渋川:えっ? あっ! 友達の奥さんの間違いです。失礼しました。

 

ー動揺してません?

渋川:動揺ってなんですか? 最近花粉が飛んでるでしょう? 渋川、花粉症がひどいんですよ。 

 

ーだからティッシュが置いてあるんですか?

渋川:そうなんですよ。ティッシュが手放せなくて。いろんな意味で。

 

 ーいろんな意味については聞かないでおきます。いつから花粉症なんですか?

渋川:子供の頃からですね。ずっと同じ薬を飲んでていて、飲まないと本当にひどいことになるんですよ。花粉が溜まりすぎて花が咲いちゃいます。〈セパバス〉も早く花を咲かせたいですけどね。

 

 

 

ー2023年の春夏は、水色がテーマカラーということで。どうしてこの色にしたんですか?

渋川:春夏だから。


ー(笑)。ストレートですね。

渋川:だってそうでしょう? 白は前回やりましたし。春夏ということでこの色がパッと思い浮かんで、〈セパバス〉のロゴに落とし込んだらバッチリハマっちゃって。そこから膨らませていきました。

 

ーたしかにすごくハマってますね。

渋川:渋川もハメたいです。

 

ーなに言ってるんですか?

渋川:どうもです。

 

ー水色からどんな膨らませ方をしたんですか?

渋川:最初はチャイナジャケットのセットアップをつくりたいなって思ったんですよ。とんねるずがむかし、整髪料のPRで水色のチャイナジャケットを着ていた画像がネットにあって。それがいちばん最初に思い浮かびました。シルクっぽい生地で、ドレープ感と光沢もあって。

 

 

ー今季はチャイナジャケットのセットアップがラインナップしていますが、水色ではなくて黒ですよね。

渋川:水色のチャイナジャケットなんて街で着れないじゃないですか。


ーそこは冷静なんですね。

渋川:だけど、ちゃんと水色のシャツやカバンをつくって、今回はスエットもネイビーにしました。渋川、しっかりシーズンテーマを頭に叩き込んでいるんで。Tシャツは以前よりもロゴを小さめにプリントして、ちゃんと着やすいようにアレンジしているんですよ。

 

ーディレクター感が出てきましたね。

渋川:どうもです。

 

 

ークッションも今回は水色からインスピレーションを得たんですか?

渋川:そうですね。今シーズンはサメ、包丁、まな板です。

 

 

ーおもしろいです。だけど、普通にインテリアとして使えますよね。

渋川:そうでしょう? でもやっぱりサイズが合わないみたいなんですよ。部屋にこれがあるだけで圧迫感を感じてしまうというか。一人暮らしの部屋にはちょっと大きすぎるってよく言われるんです。

 

 ー渋川さん的にはもっと大きくしたいんですよね?

渋川:これじゃあ小さすぎますね。サメは5メートルくらいが理想です。

 

 

渋川、〈セパバス〉に対していつも本気ですから。

 

ー代官山のTSUTAYAでは今季もポップアップイベントをやっていましたね。

渋川:今回もご好評いただいたみたいで、渋川感激です。


ーぼくも足を運ばせてもらったんですが、30代後半くらいのカップルが仲良さそうに〈セパバス〉の服を見ていました。女性のほうが外をチラッと見て「あれ? あそこ歩いている人、渋川じゃない?」って言ってましたよ。渋川さんらしき人は見当たらなかったけど。

渋川:呼び捨てかよ!

 

ーいらっしゃったんですか?

渋川:サイン会もやることになっていたので、何回か視察に行ってたんですよ。


ー真面目なんですね。ファッションショーもやられてましたよね。

渋川:見てくれましたか? 今回も渋川が服を持って出てくるパターンでやりました。あのスタイルはずっと続けていこうと思ってますね。腕筋もだんだん鍛えられてきてますし。そして今回は渋川が歩いているところをプロのカメラマンに撮ってもらったんですよ。

 

ーその写真、インスタグラムで見ました。

渋川:ブランドのインスタグラムとか、ファッション関係のサイトでランウェイの様子を報じるじゃないですか。あれの真似です。ルック写真みたいでいいでしょ?

 

ーかっこよかったです。

渋川:シーズンヴィジュアルもご覧になられましたか? 今回も題府くんに撮影してもらったんですよ。渋川は普段ゆるゆるなんで、ああいうヴィジュアルでビシッと締めてます。よく言われるんですよ、「クリエイションは渋川さんっぽいけど、ヴィジュアルがかっこいい」って。あとは「ファッションブランドっぽいですね」って。 

 

ーはい。

渋川:〈セパバス〉はファッションブランドなんですけどね。

 

 

ーですよね。だけど昨年からブランドがスタートしてちょうど丸1年が経過して、反響はどうですか?

渋川:ブランドをはじめてから軌道に乗るまでは3年かかると言われているので、これからというところでしょうか。渋川の場合、9年くらいかかりそうですが。寝かせすぎて、熟成しすぎちゃったりして。 


ーもっとがんばりましょう。

渋川:だけど、今度は有名なデパートとかでもポップアップをやる予定なんですよ。そういう意味で、出だしはいい感じだと自負してます。渋川のやっていることは本当にニッチなので、その中でおもしろいと思ってくれる人からジワジワと広がればいいですね。 


ーディレクションも慣れてきた感覚はあるんですか?

渋川:なんとなくやり方は掴んできましたけど、まだまだ慣れないですね。というかずっと慣れないと思います。 

 

ーそれでいいんですか?

渋川:いいんじゃないでしょうか。慣れちゃうと、今度はやっつけになっちゃいますから。渋川、〈セパバス〉に対していつも本気ですから。だけど、いずれは有能なデザイナーを雇って、渋川はアイデア係に徹したいですね。すごくできる子がきて、渋川はその場でただ見てるだけでOKになっちゃうのもありですね。

 

 

ーやっつけ以上にひどいこと言ってますよ。

渋川:ジョーダンです。だけど、誰にも知られていない、インスタとかもやっていない天才デザイナーを発掘して、その人と一緒に〈セパバス〉のアイテムをつくれたら夢が広がると思いませんか? いずれ喧嘩して、「こんなの売れませんよ!」とか言われると困っちゃうけど。 


ーさきほど「とんねるずの画像からインスピレーションを得た」とおっしゃって

いましたが、そうした画像などがアイデアの源なんですか?
渋川:そうですね。渋川、ずっとインスタをチェックしてるんです。それで気になった画像をスクショして、アプリを使ってムードボードみたいな感じでまとめるんですよ。

 

ー画像を検索するんですか?

渋川:しないですよ。おすすめで上がってくる画像から、気になるやつをチェックして、それをアップしている人のアカウントに飛んで、さらにその人がフォローしている人を見たりして、どんどん掘っていくんです。誰も見つけないようなところから引っ張ってくるようにしてますね。 

あとは家にむかしの本もあって、80年代の写真集や雑誌、エッセイだったりとか、そういうところからインスピレーションを得ることも多いですね。

 

 

ー一般的には音楽や映画などからテーマを決めるブランドも多いですけど、渋川さんはどうですか?

渋川:カート・コバーンとか?

 

ーそうです。

渋川:渋川は映画も音楽も好きですけど、そういうところからインスピレーションが生まれることはないですね。そうした人や作品をフィーチャーしたほうがラクだとは思うんですけど。 

 

ー人のため、世のための服づくりを根底に置きながらデザインを考えている人も最近は増えてきましたよね。

渋川:余裕があればそうしたことも可能だと思うんですけど、いまは渋川、いっぱいいっぱいなんで。家族を養うので精一杯なんで。 


ー家族いるんですか?

渋川:えっ?

  

即興ですね。渋川はJAZZなんで。

 

ー今日は渋川さんと話していて、服づくり、ひいてはブランドの運営というものが、シンプルなクリエイションであろうとも簡単ではないんだということを知りました。

渋川:〈セパバス〉の場合、服はシンプルにして、できる限りその他のことでおもしろいことをしたいなと考えています。そうしながら総合的にブランドの世界観みたいなものを上手に伝えていけたらいいなと。 

 

ーだけど渋川さんの場合、服以外の部分が難解というか、正攻法ではないように思うんですよ。そのあたりはどう考えているんですか? お客さんに届けよう、理解してもらおうという気持ちはあるんですか?

渋川:実はあんまりないんですよ。 

 

ーかっこいいですね。

渋川:だけど、「理解してもらわなくていい」とも思っていなくて。そのバランスが難しくて、渋川、いつもてんてこ舞いです。「あの人、またなんかやってる」って思われるくらいがちょうどいいというか。

 

ー常に新しいことにチャレンジしたいという意欲は伝わってきます。

渋川:本当ですか? それは渋川うれしいです。あまり人が手をつけてないこと、やっていないことをやりたいですね。

 

 

ーそれをするためにはある程度トレンドも頭に入れておかないといけないですよね。

渋川:その通りです。だけど、たまに人と話しているときに全然知らないブランド名がでてきたりしますね。むかしは「あ~、アレね! アレでしょ? アレアレ!」って言えたんですけど、最近はそれも言えなくなっちゃった。わからなすぎて…。

 

ー置いてけぼりじゃないですか。

渋川:お店の名前も渋川全然知らないんですよ。

 

ー大丈夫ですか? 情報源はやっぱりインスタですか?

渋川:インスタも見ますね。あとは古本屋で買った古い雑誌とか。それをいまの時代に当て込みながら読んでいると、おもしろいアイデアが湧いてくるんです。あとはやっぱり人との会話ですね。「◯◯っていうブランドがいますごく売れているらしんですよ」って言われると、影でこっそりそのブランドをチェックします。

 

ーコソコソしなくてもいいじゃないですか。その「すごく売れている」っていう文言がやっぱり鍵になるんですか?

渋川:そうなんですよ。それで「どうして売れているの?」って聞くと、他に売れているブランドと一緒の理由だったりするから、あまり驚きはないんですけど。〈セパバス〉は独自の路線で売れたらいいなと思ってます。

 

ーだからこそ、トレンドを頭の片隅に置いておくことが大事であると。

渋川:その通りです。あとはちょっとした毒っ気のあるものが渋川は好きなので、そうした要素も盛り込んでいきたいですね。

ー〈セパバス〉のどのあたりに毒っ気が反映されていますか?

渋川:包丁とか?

 

ーたしかに。あとはロゴが中心からちょっとズレているのも毒っ気に入るんですかね?

渋川:そうですね。ズレてるの気持ち悪いじゃないですか。「どうしてズレてるの?」ってなるでしょう?

ーあのロゴも「偶然ズレていた」と前におっしゃっていましたが、そうした偶然性も渋川さんが大事にしている要素なんでしょうか?

渋川:そっちのほうがおもしろいじゃないですか。フランク・ロイド・ライトっていう建築家の代表作に「落水荘」ってあるじゃないですか。あの建築の図面って、クライアントとの打ち合わせの2時間前に描かれたそうなんですよ。普通はそれまでにいろんなことを準備して、細かなところまで計算して描くと思うんですけど、彼はいつもそういうやり方でやっているそうなんですよ。だから周りの人が大変ですよ。

 

ーすごいですね。

渋川:浮かんだアイデアを熟成させているのか、それとも無の中からいきなり何かを生み出すのか、それは誰にもわからないけど、渋川は後者であって欲しいと思ってます。

 

ー渋川さん自身はどっちのタイプですか?

渋川:即興ですね。渋川はJAZZなんで。

 

 

ーありがとうございます。では最後にまとめに入りたいんですが、今季のおすすめはチャイナジャケットのセットアップということでいいでしょうか?

渋川:そうですね。これは渋川の自信作です。女性にも着て欲しいですね。うちの奥さんもすごくいいって言ってましたよ。

 

ー奥さんいるんですか?

渋川:えっ…?

ということで、最後の最後まで意味深発言が抜けなかった渋川さん。今季の〈セパバス〉も「ちょいサステナブル」を意識したカットソー類やデカクッション、それにシーズンテーマを反映させたシャツやチャイナジャケットのセットアップなど、渋川さんらしいクールで力の抜けたアイテムが勢ぞろいしています。文中にもあったようにポップアップイベントも開催予定なので、続報にも乞うご期待です!