MAKE CLOTHING, LIKE JAZZ. vol.02 渋川 進の第二章。 80年代に魅せられた黒のコレクション。

MAKE CLOTHING, LIKE JAZZ. vol.02 渋川 進の第二章。 80年代に魅せられた黒のコレクション。

「渋川、ファッションでJAZZがやりたいんです」。そんな言葉を放ち、鮮烈なデビューを果たした〈セパバス〉のクリエイティブディレクター・渋川 進。この秋冬、彼の第二章がスタートします。デビューシーズンを飾った“生成り”のコレクションとは打って変わり、今回のコレクションは“黒”。そこにはどんな想いが込められているのか? 渋川氏の胸中を知るべく、彼のもとを訪ねました。

Photo:Motoyuki Daifu
Interview & Text:Yuichiro Tsuji

Profile
渋川 進 / SEPARATE BATH & TOILET Creative Director
年齢不詳、プロフィール非公開。
好きな食べ物:パン
好きな動物:カピパラ
口癖:「それいいじゃん!」 

 

渋川、そういうところに目がいっちゃうんですよ。

 

ー今回もよろしくお願いします。
渋川:どうも渋川です。よろしく。

ーアクリル板がすごいですけど、コロナを気にされているんですか?
渋川:そこまで気にはしてないですね。

 ーどうしてこんなにアクリル板を?
渋川:昼に二郎系のラーメンをマシマシで食べちゃって。渋川、コロナよりも口臭を気にしてます。 

ーなるほど。じゃあ先に進めます。今回は黒いコレクションということで。
渋川:そうなんです。80年代にカラス族とかあったじゃないですか。今シーズンの服をつくるにあたって、その頃のDCブランドの服がなんだか気になっていたんですよ。 

ー“黒の衝撃”と言われていたやつですね。
渋川:そうですね。それで当時の写真を検索すると、サイズ感とか着こなしがすごくかっこいいんですよ。渋川、それにビビビッときてしまって。いわゆるオーバーサイズのスーツとかを着ている人もいるんですけど、それがいま流行っているオーバーサイズとはまたちょっと違うというか。 

ー昨年の紅白歌合戦でDiSHがめちゃくちゃ大きなスーツを着ていました。あんな感じでしょうか?
渋川:あれもかっこよかったですね。いまはハイブランドもそうやって、あえて大袈裟な服をつくったりしてますよね。日本でそういう服を着ていると、「七五三?」とか聞かれたりするけど。 

ー人の服装にいちいち反応して茶々を入れてきますよね。
渋川:渋川もスーツで飲み会に参加したとき「結婚式帰り?」って言われました。人民帽かぶったときは「中国帰り?」って言われたこともありますね。そうゆうことを言われない服が最近流行ってるのかなと思うんですよ。 

ーなるほど。普通の服というか、ツッコミどころのない服ということですね。
渋川:そうですね。〈セパバス〉の服も普通ではあるんですけど、もうちょっとカッコよくて、気の利いたデザインを加えたいなと思っているんです。それで前回は生成りだったけど、今回は真逆の黒でやろうと決めていて。そこから80年代のDCブランドが気になりはじめて。

 ーそして画像を検索していったと。
渋川:はい。「80年代」、「カラス族」、「黒」、「黒柳徹子」と検索して。 

ー最後のはジョーダンですよね?
渋川:ご名答です。 

ーよかったです。
渋川:80年代のそうした黒い服って、いまのヤングからしたらすごくおしゃれに見えると思うんです。当時のDCブランドの服がいま古着屋で高く売られているという話も聞きますし。海外の人たちも欲しがっているそうですよ。 

ちょっと前に山本耀司さんのドキュメンタリー映画を観にいったんですよ。古い作品でショーの裏側を追った内容だったんですけど、事務所でモデルに衣装を着せたりしてて。そのときにほんの少しだけアシスタントの女性が映るんですけど、その人がものすごくおしゃれだったんです。黒いパンツに革靴を合わせて、白いシャツをタックインして、髪型は黒髪のボブで。本当にちょっとだけしか映ってなかったんだけど、その人がいちばん印象に残ってましたね。

渋川、そういうところに目がいっちゃうんですよ。自分のスタジオにはパンクバンドの写真集とかがあるんだけど、バンドよりもライブに来ているお客さんの服装とかが気になっちゃう。メインよりもサブなんです。

 

 

ー今回のコレクションに対する気合いが伝わってきます。それだけファッションを意識されているということですよね。
渋川:そうですね。先シーズンはリラックスした服で、どちらかといえばコンビニへ行くときに着るような服でしたが、今回はしっかりとおしゃれして出かける服になってます。だからスーツやコートがラインナップしていて。 

ーオーガニックコットンは使っているんですか?
渋川:コットンのアイテムには使われていますね。だけど、今回はナイロンもあったりします。 

ークッションもかわいいですね。
渋川:かわいいでしょう? 

ーこれ、なんですか?
渋川:黒ということで、コウモリ、うなぎ、あとはホクロです。 

ー渋川さんのおすすめアイテムはありますか?
渋川:スーツ、ネクタイ、シャツですね。あとはコートも。モヘアのニットもいいんですよ、これ手編みなんです。全部黒だから、コレクションとしてちゃんとまとまって見えますよね。

 ー渋川さんが黒からイメージするものってなんですか?
渋川:黒ラブ。キムタクが飼っていた黒いラブラドールが真っ先に浮かびます。

 ーあとは?
渋川:カラス、黒ゴマ、ホクロ、墨汁、ウナギ、ノリ、鉛筆の芯、メガネ、イカスミ。それと………。

 ーそれと??
渋川:チ◯毛。

 

 

 

ファッションってズラしが大切ですから。

 

ー今回もJAZZを演奏するようにつくっていったんですか?
渋川:そうですね。なんとなくのイメージを共有して。一般の人のおしゃれな画像や、グーグルで調べた画像などをチームに見せて、こういう感じがいいですっていうのを伝えるんです。「この人が着ているこの服のこうゆう雰囲気が好き」とか、「この生地感がいい」とかね。 

ー渋川さんが気になるファッションは、変わったものが多いんですか?
渋川:本当に普通ですよ。変わったものも好きですけど、ただ変わっていればいいっていうわけでもなくて。普通の中に驚きがあると、反応しちゃいますね。ビンビンに。

 ーはい。
渋川:あとは渋川、ちょっとタイミングがズレてるんですよ。街で流行っているスニーカーとか、数年後にいいなって思うタイプなんです。ブームが落ち着いた頃に履いてみたりして、そのときに「いいですね」ってなる。そうゆうタイミングも大切だと思うんですよ。ファッションってズラしが大切ですから。そのタイミングでそれを着るんだっていうね。流行っているときに流行っているものを着るのは、人と同じじゃないですか。 

 

 

ー今回のコレクションをデザインするにあたって、難しかったことなどはありますか?
渋川:生地選びはすごく難しかったんですよ。サンプルができあがってくるまでわからないから。だけど、どうゆうものができるかワクワクする感覚もあって、渋川、ずっとドキがムネムネでした。

 ー胸がドキドキしてたんですよね。サンプルがあがって、全然ちがうなっていうこともあったんですか?
渋川:なかったですね。その辺は渋川、センス抜群なんで。こだわりだしたらキリがないですから。そこらへんのジャッジはササッとしちゃうんですよ。別にそれは手を抜いているという意味ではなくて、ある程度いいものができるという確信があるからなんです。あとはスタイリングとか、そういうところでプラスアルファまで持っていけるので。 

ー着方や見せ方ということですね。
渋川:そうですね。渋川、スタイリストのアシスタントをかじってたんで。そこらへんは技術を持ってるんですよ。 

ー今回のコレクションを使ったヴィジュアルも公開されていますが、1発目に発表されたスーツのスタイリングがすごくかっこよかったです。
渋川:今回も題府くんに写真を撮ってもらって。すごくよかったでしょ。渋川のスーツの着方は、もうちょっと普段着っぽい着方なんですよ。フォーマルだけどスキがあるというか、かっちりしすぎない感じ。スーツなんだけど、スーツっぽくないっていうか。そのさじ加減が重要なんです。 

ーだけど冠婚葬祭もいけちゃうみたいな。
渋川:そうそう。会社にも行けるし、アレにも行けますよ。

 ーなんですか?
渋川:合コン。

 

 

自分勝手だと思うんですが、それが渋川のスタイルなので。

 

ー制作期間中のおもしろエピソードなどはありますか?
渋川:とくにないですね。渋川、JAZZなんで。常におもしろいことを考えてますから。

 ーなるほど。
渋川:あんまり物事を順序立てて整理していくのがニガテなんですよ。ひらめきを大事にしているから。いろいろアイデアを練って準備していると、プレゼンするまでに自分の中で鮮度が失われていくんですよ。それだったら打ち合わせのときにパッと決まったほうがおもしろい。なるべく考え込まないように、アイデアを煮詰めないようにしてますね。 

ーチームのみなさんが大変そうですね。
渋川:〈セパバス〉のチームの皆さんには本当に感謝してます。渋川はじっくり考え込むタイプではないから、合わない人もたくさんいると思うんです。もちろんじっくり考えて生まれたものがいい場合もあるし、そうじゃない場合もあるでしょう。だから、ものづくりの方法に正解はないんですよね。だけど、チームのみなさんは渋川についてきてくれています。本当にありがたいですね。あとは自分が楽しくて、みんなとそれを共有できればいいなと思ってます。 

ーやっぱり楽しいですか?
渋川:もちろんですよ。楽しくやりながら、おもしろいことをして、ちゃんと結果を残すのが渋川のやり方ですから。難しいことだけど、それができたらカッコいいでしょう? そして常に新しいことにチャレンジしたい。自分がやったことがないことに挑戦したいし、見たことないものを見たい。自分勝手だと思うんですが、それが渋川のスタイルなので。 

ーやっぱりJAZZですね。
渋川:どうもです。

  

最後にカッコよく締まった渋川さんのインタビューでした。かっこいいことを言いながらも、常に口臭を気にしていた渋川さん。帰り際、マスクを5重にして帰っていきました。そんな渋川さん渾身の黒いコレクション。スーツにはじまり、ニットやコート、そしておなじみのルームウェアやホームアクセサリーに至るまで、幅広くラインナップしています。この機会にぜひ、渋川さんの“モード”をまとうことをおすすめします。