Make Clothing, Like JAZZ セパバスはJAZZみたいなブランド。クリエイティブディレクター・渋川 進のアイデア。

Make Clothing, Like JAZZ セパバスはJAZZみたいなブランド。クリエイティブディレクター・渋川 進のアイデア。

2022年春夏より、満を持して(?)スタートしたブランド、〈セパバス(SEPARATE BATH & TOILET)〉。
“ちょいサステナブル”をテーマに掲げるも、まだまだ謎が多く、真面目なのか不真面目なのかもよくわからない。ということで、ブランドのクリエイティブディレクターに就任した渋川 進氏にインタビューを敢行。っていうか、そもそも渋川って誰なの…? そんな不安を抱きながら、おそるおそる渋川氏のもとを訪ねました。
 
Photo:Motoyuki Daifu
Interview & Text:Yuichiro Tsuji
 
Profile
渋川 進 / SEPARATE BATH & TOILET Creative Director
年齢不詳、プロフィール非公開。
好きな食べ物:パン
好きな動物:カピパラ
口癖:「それいいじゃん!」
 
 
 

渋川、ファッションでJAZZをやりたいんです。

 
ー本日はよろしくお願いします。
渋川:どうも渋川です。よろしく。
 
ーまずはじめに、〈セパバス〉とはどんなブランドなのか教えてください。
渋川:〈セパバス〉とはどんなブランドなのか、考えたこともないな。
 
ーでは、〈セパバス〉がはじまった経緯は?
渋川:〈セパバス〉を運営する会社の方から、渋川と取り組みをしたいっていうご連絡をいただいたのがきっかけです。これまで渋川はいろんなブランドとコラボレーションをしてきたんですよ。だけど、そのどれもが単発的なものでした。渋川的に、継続的に続けられる仕事がしたかった。だからそうしたいと伝えたら、「是非」とうれしい回答をいただいたんです。それで打ち合わせがスタートして。
 
ーそこからブランドの根幹をつくっていったんですか?
渋川:そうですね。たまたまそのときにオーガニックコットンでつくられた服や生地のサンプルが置いてあって、渋川が「いいじゃん」とひと言放ったんですよ。
 
ー普段からオーガニックコットンの製品を好まれているんですか?
渋川:いいえ、まったく。最近SDGsとかってよく聞きますけど、ちょっとトレンドっぽい取り扱い方されているでしょう。だけど、あえて渋川がそれに取り組むっていうのがいいんじゃないかと。渋川なりのフィルターを通してオーガニックコットンを発信したらおもしろくなるんじゃないか、そう思ったんですよ。
 
ーだから“ちょいサステナブル”なんですね。
渋川:そうですね。だけど、渋川のライフスタイルはよくよく考えてみるとサステナブルなんですよ。サステナブルをすごく謳っているブランドがあるとして、そのデザイナーが常にクルマで移動する人だったら、果たしてそれはサステナブルなのか? って思うじゃないですか。
 
ーたしかにそうですね。
渋川:だけど渋川の場合、運転免許持ってませんから。
 
ー(笑)。
渋川:移動は基本自転車ですから。着ているのは古着とか拾ったものだし、ずっと同じもの着続けますし。買い物も大体メルカリですから。だけど、次のシーズンにはサステブルじゃなくなってる可能性もある。
 
ーえっ、どういうことですか?
渋川:渋川、ファッションでJAZZをやりたいんです。
 
ー???
渋川:コンセプトはあってないようなものなんです。担当の人に「どういう服をつくりたいですか?」って聞かれるんだけど、その場その場で「こうしたい」というのを伝えているんです。
 
ーJAZZの即興演奏のように、その場でおもいついたアイデアを出していくという感じなんですか?
渋川:「渋川さんの世界観でお願いします」っていうことだったし、そもそも渋川は洋服の作り方とかまったく知らないんですよ。
 
ーそれでよく引き受けましたね。 
渋川:やったことないことに挑戦するのが渋川の生き方ですから。
 
ーなるほど。
渋川:予想がつかないことをするのが好きなんですよ。だけど、とんでもないことをやってしまうと継続的にやるという目標を達成できなくなる。なので、ちゃんとみなさんに使いやすいと思ってもらえるものをつくっているつもりです。
 
 
 

I see(なるほど)」とだけ返事がきました。

 
ー〈セパバス(SEPARATE BATH & TOILET)〉って「風呂トイレ別」という意味ですよね。これには意味があるんですか?
渋川:とくにないですね。だけど、ブランド名をつけるにあたって「&」っていうのは入れたかったんですよ。「ナントカ&ナントカ」ってよくあるでしょう。渋川の統計的に、そういうブランドって売れてるんですよ。
 
ーそれがよりによって〈SEPARATE BATH & TOILET〉に…。 
渋川:「風呂トイレ別」って英語でなんていうのかな、と閃いて。調べたら“SEPARATE BATH & TOILET”って海外の不動産用語でも使われているそうなんですよ。それで渋川、ビビッときちゃいましたね。
 
ー海外の人がこのブランドを知ったときの反応が見てみたいです。
渋川:SNSで一度反応があったんですよ。「どうして〈SEPARATE BATH & TOILET〉なんだ?」って。正直、答えるのがすこし億劫だったんですけど、渋川、ちゃんと丁寧に説明しました。「日本では若い人たちが一人暮らしをするために部屋を借りるとき、風呂トイレ別かを気にするんだ」って。そしたら「I see(なるほど)」とだけ返事がきました。
 
ー(笑)。
渋川:本当にわかったのか疑問ですが、渋川的に気に入っているブランド名なのは間違いないです。
 
ーこのロゴもシンプルでいいですね。 
渋川:実はこれ、渋川がiPhoneでつくったロゴなんです。打ち合わせでみなさんにお見せしたら、「ちょっと左にズレてません?」となって。
 
ーたしかになんかズレてます。
渋川:それで中央にズレを直したバージョンもつくってみたんですけど、その場にいた人が満場一致で「ズレてるほうがいい」となって。そっちのほうが渋川っぽいって。かっこいいですねって。
 
ーよかったですね。
渋川:どうもです。
 
ー〈セパバス〉のインスタグラムも、このロゴのステッカーの写真がアップされることからスタートして、「これは何なんだ?」と気になっていました。
渋川:チームで考えた作戦ですね。普通だったら服のサンプルをつくって、それをかっこいいモデルに着せてクールな写真を撮るんだけど、いきなりステッカーからスタートさせたんですよ。
 
ーそれもJAZZ的なアイデアですか。
渋川:そうですね。全部即興。だけど、写真かっこいいでしょう? 友達の題府くんっていう写真家が撮ってくれて。〈セパバス〉を運営している会社の中で撮影したんですよ。渋川が至るとこにステッカーを貼って、それを題府くんがクールに撮ってという作業。楽しかったですよ。
 
ー某ストリートブランドのシーズンイメージも撮ってる写真家ですよね。
渋川:そのブランドと間違えられたりしてね。
 
ー…。そして最近になってようやくモデルを起用したヴィジュアルも公開されました。
渋川:あれも題府くんですね。かっこいいでしょう。真似できそうでできない感じのヴィジュアルというかね。そういう絶妙なラインが好きなんですよ。
頭の中でイメージしたものもあったんだけど、実際に現場にいくとその通りにいかないってことがよくあるでしょう? 渋川、それでもいいと思ってるんですよ。それでできあがったものがクールであれば。
 
ーなんとなくアート的な考え方というか。
渋川:そうですね。なんでもいいんですよ、変な意味じゃなくて。最終的にまとまったものができあがれば。
 
 
 

あまり型にハマらずにやりたいんですよ。

 
ーアイテムのことについても聞いていきたいんですが、ファーストシーズンはいわゆるワンマイルウェアやホームアクセサリーが多いですよね。
渋川:最初は家で使えるものをつくりましょうっていう話でまとまって。
 
ーアパレルはユニセックスですか?
渋川:そうですね。女性が大きく着てもいいし、男性がタイトに着てもいいし、着方はお任せします。
 
ーデザインのこだわりはありますか?
渋川:デザインのこだわりかぁ。そういうこと聞くと、みなさんどんなことを答えるの?
 
ー「ステッチの細かさにこだわってる」とか。
渋川:じゃあそれで。
 
ー(笑)。本当にそう書きますよ?
渋川:というのは渋川なりのジョーダンです。驚いたでしょう?
 
ービックリしました。それで、こだわりは??
渋川:ずっと持っていられるものにしたかったんですよ。流行りが終わって来年着られないとかじゃなくて、どんな時代においても違和感なく着られるもの。もしくは家に置いておけるものをつくりました。
 
ーそれもある意味サステナブルですよね。
渋川:そうですね。
 
ー服だけじゃなくてホームアクセサリーもつくったのはどうしてなんですか?
渋川:最初はライフスタイルに寄せたんですよ、だからそういうアイテムもあっていいんじゃないかと。〈セパバス〉っていうブランド名も、よくよく考えたら家のことじゃないですか。だけど、次のシーズンはもっとファッショナブルにしてもいいかなと思ってます。あまり型にハマらずにやりたいんですよ。
 
ーあくまでJAZZであると。
渋川:そうですね。いきなりいろんなことを決めると、それだけになっちゃうから。
 
ークッションもかわいいです。
渋川:これは渋川も気に入ってます。オンラインで注文を受けると、大きいから送るのが大変なんだけど。
 
ーこれもオーガニックコットンなんですか?
渋川:もちろん。渋川、オーガニックにこだわっているので。
 
ーそれにしても、どうしてこんなに大きいクッションをつくったんですか?
渋川:大きいの好きなんですよ。おもしろいでしょう。大きいっていうだけで。だけど実際問題、これが部屋にあったら邪魔じゃない? だから売れないかもしれないな…。クッションはこれからもつくりたいんだけど、サイズが小さくなったら察してほしいです。
 
 
 

「じゃあそれで」となってしまって、渋川も驚きましたよ。

 
ークリエイティブディレクターとして〈セパバス〉の舵取りをする中で、苦労したことや、実現するのが難しかったことはありますか?
渋川:雨の日に打ち合わせに向かうとき、靴が濡れることかな。
 
ー??
渋川:それで靴下がビショビショになって、打ち合わせに集中できない。渋川、免許持ってないでしょ? だから必然的に道を歩くことになるんです。
 
ーなるほど。それ以外に苦労したことはないですか?
渋川:ないですね。靴が濡れるの、本当にイヤなんですよ。渋川は傘も極力さしたくないんです。だから雨がニガテで晴れが好き。だから晴れている日の打ち合わせは本当にスムーズですよ。担当の方々は渋川のことわかってくれているんで、雨が降る以外は苦労がなかったですね。
 
ーオンラインサイトでは既にアイテムの受注がスタートしていますね。
渋川:オンラインサイト、かっこいいでしょう? おしゃれな感じにしたかったんですよ。通販で買ってくれた人には、ちょっとした仕掛けも考えていて。誰かからの手紙が入ってます。それを見て、元気になってくれたらうれしな。涙が出る人もいるかもしれない…。
 
ーそれも即興で浮かんだアイデアですか?
渋川:そうなんです。打ち合わせのときに「なにか入っているといいですね」ってなって。渋川が「手紙はどうですか?」っていうアイデアを出したんですよ。そしたら「じゃあそれで」となってしまって、渋川も驚きましたよ。
 
ー普通、ステッカーとかですよね。 
渋川:そうそう。だけど、それにOKを出す担当者もすごいでしょう?
 
ーいいチームなんですね。
渋川:ありがたいことに。渋川のこと信頼してくれています。
 
ー今後の〈セパバス〉の目標はありますか?
渋川:最初にも話した通り、続けたいんですよ。自由におもしろいことをやってると、普通は売り上げがついていかないんだけど。それを両立させたいですね。
 
ーファッション業界に対するメッセージというか、風穴を空けるみたいな意思はあるんですか?
渋川:ゼロです。
 
ーかしこまりました。
渋川:「渋川がまたなんかやってる」と思いながら、気にかけてもらえたらうれしいですね。
 
ーいろいろ考えてなさそうで実は考えている感じが伝わってきました。長く使えるデザインにしても、手紙のことにしても、お客さんのこと喜ばそうとしてますよね。
渋川:それが伝わったら、渋川も幸いです。これからもいろいろ考えていくので、よろしくどうぞ。
 
 
終始落ち着いたトーンで語られた渋川氏の言葉。彼は本気なのか、それともふざけているのか、それがよくわかりませんでしたが、ブランドで表現したいことはなんとなく理解できた気もします。インタビュー後、そそくさと帰っていった渋川氏。今後の〈セパバス〉はどうなっていくのか? 乞うご期待ください。