MAKE CLOTHING, LIKE JAZZ. vol.04

MAKE CLOTHING, LIKE JAZZ. vol.04

赤はりんご、ミミズ、そしてブロークンハートの色。
加賀美健が語る学生時代の甘酸っぱい思い出。

〈セパバス〉、今シーズンも突っ走ってます。ファーストシーズンの白、セカンドシーズンの黒、そして前回の水色と続き、今回フィーチャーするのは「赤」。そう、情熱の色です。ということで、どうしてこの色なのか? 今季の見どころは? っていうか、〈セパバス〉っていまどんな感じなの? などなど。常に絶えない疑問をクリエイティブ・ディレクターの渋川すす…じゃなくて、加賀美健さんに投げかけます。

 Photo:Motoyuki Daifu
Interview & Text:Yuichiro Tsuji

Profile
加賀美健
1974年生まれ。東京都出身。ドローイングや彫刻などの作品をリリースし、国内外問わ ず多数の美術展に出展。アパレルブランドとのコラボレートも積極的に行ない、自身が運 営する代官山の「ストレンジストア」では、自作のTシャツなどグッズを展開。〈セパバス〉では当初、渋川進という謎の人物に粉してクリエイティブディレクターに就任したが、突如正体を明かす。本人曰く「かつらとか被るのがめんどくさい」とのこと。

Instagram:@Kenkagami

 

 

 

打合せで、一気にテンション下がるようなことを言う人いるよね。



ー〈セパバス〉って今季で何シーズン目ですか?

加賀美:これで5シーズン目だね。結構やってるでしょ?

 

ー最近はコラボもされて忙しそうでしたよね。

加賀美:めちゃくちゃ大好評だったんだよね。コラボは…。

 

ーコラボは…、ですか?

加賀美:そう! コラボは…。SNSでもフォロワー数が増えたんだけど、今季のコレクションで〈セパバス〉らしさをドカンと見せてやろうと思ってます。

 

ー実際のところ、〈セパバス〉の評判ってどうなんですか?

加賀美:うちの奥さんは褒めてくれますよ(笑)。「着れる」って。実際毎日着てくれてるし。

 

ーなにかの雑誌の企画で、お部屋紹介みたいなページで〈セパバス〉のクッションを置いているおしゃれなカップルがいましたよ。

加賀美:マジで? それはうれしいね。センスあるね、そのカップルは。いつのやつだろう?

 

ー白いクッションだったので、初期のアイテムですね。

加賀美:最初のほうからチェックしてくれてるってことか。いいね。今季は赤なんだよね。

 

 

 

ーどうして赤なんですか?

加賀美:毎回頭に浮かんだ色を起点に服のデザインを考えるんだけど、今季は赤が浮かんだの。そしたらさ、他のブランドでも赤をフィーチャーしたスタイリングがSNSで上がってて。「真似したって思われるんじゃない?」ってうちの奥さんにも言われたんだけど、アイデアは〈セパバス〉のほうが早かったからね。

 

ークリスマスでもないのに赤なんですね。

加賀美:赤ってそういうイメージあるよね。あとは還暦とか。

 

ージャイアント馬場とか。

加賀美:打合せでそういうこと言う人いるよね。なにかやろうとしているときに「お笑い芸人でそういう格好してる人いますよね」とか、一気にテンション下がるようなことを言う人。

 

ーすみません…。

加賀美:俺は全然いいんだけどさ、おもしろければ(笑)。

 

 

 

ーでも、赤ってファッションにおいてはすごく効果的な色ですよね。うまく使いこなせれば、おしゃれ度が格段に上がるというか。

加賀美:そうだね。だけど、難易度は高いよね。自分的にはいい色ができたなって思ってるんだけど、どう? ちょっと印鑑みたいな色を目指したんだよね。

 

ー「印鑑みたいな色」って自分で言っちゃってるじゃないですか。赤は赤でもこだわったということですか?

加賀美:そう! それが言いたかったんだよ。巣鴨っぽい色にはしたくなかったというか。

 

ー巣鴨っぽいってどういうことですか?

加賀美:もうちょっと濃い赤っていうかさ。〈セパバス〉では明るい赤にしたかったんだよね、オレンジっぽいというか。

 

ー加賀美さん、赤い服って着ますか?

加賀美:たまに着るよ。

 

ーやっぱりデザイナーが着てないと説得力でないですよね。

加賀美:だけど、自分で〈セパバス〉の服を着るのは、なんか恥ずかしいんだよね。

 

ー赤のアイデアはいつ頃からあったんですか?

加賀美:去年のクリスマスのもっと前から。クリスマスで赤って、ストレートすぎるでしょ。

 

ーめでたい色ですよね。

加賀美:だから、そういうのがよくないんだって(怒)。めでたいとか、還暦とか、クリスマスとかさ!

 

ー失礼しました(笑)。

加賀美:そういう発想じゃなくて、もっとおしゃれなアイデアに転換しないと。

 

 

あのとき走った衝撃はいまでも忘れない。



ーおなじみのクッションは今回もシーズンカラーを象徴するものばかりですね。

加賀美:今回はりんご、ミミズ、あとはブロークンハート。

 

ーなんで普通のハートじゃなくてブロークンなんですか?

加賀美:普通のハートだとノーマルすぎるから、失恋させてみたんだよね。

 

ー加賀美さん、失恋の思い出ってありますか?

加賀美:あるよ! 中学生のときにKさんっていう好きな子がいたんだけどさ、ショートカットで背が高くて、頭が良くてスポーツもできたんだけど。

 

ー才色兼備ってやつですね。

加賀美:すごい可愛い子だったんだけど、俺は野球部だったし、坊主で全然モテなかったの。それで同じ学年にSくんっていうバスケ部のエースみたいな子がいてさ、そいつも頭が良くてスポーツ万能だったんだよね。実はKさんはSくんのことが好きなんじゃないかっていう噂があって。

 

ーすでにもう切なくなってきました…。

加賀美:でしょ? だからすごくモヤモヤしててさ…。

 

ーそれでその後どうなるんですか?

加賀美:あるとき家庭科の授業で、みんなで刺繍をしたんだけどさ。デザインは生徒が自由に決めてよかったの。それでみんなの作品を教室に張り出すことになっててさ。俺はKさんのことが好きだったから、彼女の作品を見に行ったんだけど…。

 

ーどうだったんですか?

加賀美:バスケットボールしてる男の子が刺繍で表現されててさ、Sくんの苗字まで刺繍されてたんだよね。

 

ー露骨ですね~。

加賀美:それを見たとき、膝から崩れ落ちたよ。あのとき走った衝撃はいまでも忘れないよ。結局ふたりは付き合ったっぽいんだけど。バレンタインでチョコあげてたし。

 

 

 

〈セパバス〉は色くらいしかない。テーマを決めるとおもしろくなくなっちゃう。


ー気を取り直して、題府さんが撮影したヴィジュアルは今季もかっこよかったですね。

加賀美:よかったでしょ? 結構ふざけているつもりでも、あのヴィジュアルみたいにビシッとかっこよく決められるんで。

 

ー今季で5シーズン目ということで、デザインの作業も板についてきた感覚はあるんですか?

加賀美:いや、まったく。

 

ーきっぱり言いますね。難しいですか?

加賀美:なにが正解なのかが分からない。だからまだ手探りだよね。ブランドをもっと大きくして、優秀なデザイナーを雇えたらいちばんなんだけど。俺がアイデアを出して、デザイナーがそれを形にするみたいなね。大きなブランドってそんな感じでしょ? どれだけ優秀な人材を抱えられるかもブランドの手腕のひとつというかさ。

 

ー加賀美さん的におすすめのアイテムはありますか?

加賀美:左右が黒と白で分かれてるシャツとかお気に入りだね。

 

ー赤のアイテムじゃないんですね。

加賀美:あれはね、友達のミュージシャンが着てたんだよね。それがいいなって思って。半分になっているデザイン好きなんだよね。

 

ージョーカーみたいな。

加賀美:そうそう。

 

ー半分のスーツとか、どうですか?

加賀美:シャツまでならいいけど、スーツになると売れないでしょう。売れないものをつくってもしょうがない。だけど、そういうデザインばっかり思い浮かんじゃんだよね。いまってなにが人気なの?

 

 

ー最近だと2000年代のファッションが人気ですよね。当時のテクニカルなデザインとか、レディースだとギャルっぽいアイテムとか。

加賀美:なるほどね~。結局普通のものが好きだからさ、デザインがどうこうとかじゃないんだよね。

 

ーそういう意味で〈セパバス〉は、加賀美さんの好きなものをピュアにつくっているということですよね。

加賀美:そうだね。売れなきゃ意味ないから普通のものをつくっているんだけど、普通すぎてもつまらない。だからちょっとだけ自分らしいエッセンスを加えているんだけど。他のデザイナーとか、どうしてるの?

 

ーシーズンテーマを決めたりとか。

加賀美:カート・コバーンとかでしょ?

 

ー今日の加賀美さん、なんとなくグランジっぽいですけど。ブロークンハート感めちゃくちゃ出てますよ。

加賀美:でも、〈セパバス〉は色くらいしかないんだよね。テーマを決めるとおもしろくなくなっちゃう。イメージが狭まるというかさ。なんでみんなロックスターの名前あげるんだろう。

 

ーじゃあ、誰がいいですか?

加賀美:立川談志。

 

ーたしか立川談志さんは赤いヘッドバンドしてましたよね。

加賀美:かっこいいよね。でも、やっぱり人物を立てるとややこしくなるから決めないほうがいいなって思ってて。

 

 

今年、水瓶座はいいらしい。


ー服を手で持って出てくるファッションショーも定番化してきましたよね。

加賀美:あれはもうずっと同じスタイルだね。最初はインパクトあったけど、何回もやると定番化してくる。もう普通になってきちゃったから、なんか新しいことをやりたいね。いいアイデアないかな?

 

ーん~、むずかしいですね。マネキンに着せて出すとか?

加賀美:それはもうアイデアとして既に考えたんだけど、いちいち着せたり脱がせたりするのが面倒だからナシってなったの。台車にマネキン乗せて出てきたらおもしろいんだけどね。

 

ーそうなると、新しいアイデア出すまでに時間がかかりそうです…。

加賀美:服を畳みながら出てくるとか、どう?

 

ー服が全然見えないじゃないですか。

加賀美:そうだよね(笑)。だけど、おもしろいじゃん。ちょっとアリかもな。

 

ー最後に、今年の目標ってありますか? もう4月ですけど、一応聞かせてください。

加賀美:健康かな。怪我と病気をしないっていう。今年、水瓶座はいいらしんだよね。6月くらいからよくなるらしい。

 

ーでは、それに期待ということで。

加賀美:当たった試しがないんだけどね(笑)。

 

 

 

健康が目標といいながら、それとは真逆のヴィジュアルで登場した加賀美さん。大丈夫なのでしょうか? デザイナーは満身創痍でも〈セパバス〉は平常運転中。今季もユニークなアイテムを取り揃えています。プリントの位置が微妙に変わって着やすくなったスエットアイテムや、コーディネートの差し色に効果的な赤いバッグやソックスなどの小物類も充実。ぜひともオンラインストアを覗いてみてください。デザイナー渾身のアイテムたちがお待ちしております。